海へ行きました。

我々飯を食ったり酒を飲んだりばかりで、少しは体を動かしたほうがよいのではないか?

 

そういう気持ちになった我らは割合計画的なようでいてそれでいて急気味に海に行くことになった。

 

海はやっぱ日本海だよな!

ということで琴引浜に行った。

 

平日ということもあってほぼプライベートビーチ状態で、わーいやったぜというステータスになった。

 

しばらくぷかぷかしてるだけだったんだけど、じろーちゃんはおもむろに磯の方に歩き初め、磯が堤防のように出っ張った場所の先端まで到達すると、おもむろに海中にダイブした。

 

僕は実際ちょっと神経質なところがあり、そんな磯やら藻やらが沢山あるところに分け行って、水草の影に危険な水生生物がいたらどうするんだ!フジツボだってワンミスしたら人間の膝の裏に住み着くってアンビリーバボーで見たことあるぞ!なんて向こう水で命知らずなんだ!ええいままよ!僕は夫として彼女の安全を守り、無事に沖まで連れ帰る立場にある!と考え、南無三と叫んでざんぶと水面に体を沈めた。

 

僕は海と言うものの美しさについて知った。

それまで僕の思う海の美しさとは、蒼穹と溟渤の、異なる二つの青に挟まれた、時に霞み、時にたゆたう人の世の美しさであると思っていた。

しかし水面の下にはまた別の美しい世界があった。

青々しく范る海藻の草原、死人が墓場の土から突き出すかのような、白味を帯びた菟葵。こちらに向けて狙いを定める古代の巨大生物のごとき巨岩。日光がさざ波を照らして出来た海底の不可思議な模様。下駄の鼻緒をきつく握りしめた僕の足のはるか下にある、陽の光も届かぬ海底の深淵さ。誰がために整備されたわけでもないのに、数多の生き物たちがその地形のあり方に寄り添って暮らす、自然そのものの、その存在それ自体。

 

僕は今日海に来てよかった!

そう思った。

 

じろーちゃんは僕に、僕がいつもしないような世界の楽しみ方を教えてくれる時がある。

今日見たような磯の光景だって、僕は生まれて死ぬまで――つい最近までまともに泳げなかったのもあるが――ゲームの画面とディスカバリーチャンネルでしか見ることがないだろうと思っていた景色であった。

 

夕方になってもう一度、僕は磯のあたりの海中が見たくなって潜ってみた。

水は昼間より断然冷たくなって、太陽は雲に隠れたために世界はより暗くなり、あれほど美しくみえた光景が、今度は恐ろしく思えた。

果てしなく広がる水草の無限のうごめき、磯の影という影に生まれる闇や、岩陰や藻に身を隠す魚の身のこなし、自分よりも遥かに巨大な生き物に見える岩石の岩肌などを見て、なるほど、こういった根源的な恐怖は、夜の山でも感じることが出来るあの恐怖と同じものだと直感した。そういったあずかり知れぬ場所に潜む、自らの作り出した恐怖も含めて、海の楽しさの一つなのだろうなあという結論に至った。

 

そうして僕らはカロリーを消費することに成功し、帰路についた。しかし僕らはどちらから言うでもなく、こんなことを言い出した。

 

「なんか肉食いたくねえか?」

 

僕らは、「今日はとにかく肉を死ぬほど食いまくる」という誓を立てた。

 

そんなわけで僕らは焼肉店へと向かい、消費したカロリー以上の肉を食って食って食いまくった。

 

おしまい。