かぜはく電脳曼荼羅

玄秘学、食文化、ゲーム、生と死に非常な関心があります。

シャンパーニュと旧約聖書とオリエントの話

シャンパーニュなる酒がこの世の中にある。

フランス共和国シャンパーニュ地方で作られている一定基準を満たした発泡性ワインであることはよく知られている。

 

中世ではフランク王国戴冠式などにこの地方のワインが振る舞われていたり、ドン・ペリニヨン修道士が発泡したワインを作るようになってからは世界中で好んで飲まれている。

祝いのお酒としてのイメージが強く、様々なシーンで楽しまれているね。

 

僕これあんま興味ないんだよね(今日の話終わり)。

 

物にもよるけど高いじゃないですか????

こちとらコスパ重視で生きてるので、うわークリスタルさんまんえん!ジャック・セロスごまんえん!クリュッグのクロ・デ・ムニルさんじゅうまんえん!とかを消えものに使えないわけ。

三十万あったら株買うわい。

 

値段だけの問題じゃなくて、うまいのはうまいんだけどほんのちょっっっっっっとの差で値段がバカみたいに上がるので、香ばしい系の泡が飲みたかったらスペインのカヴァとかを買う。安いので。

もっと言うとさっぱりしてて果実味も感じられるほうがいいので僕はプロセッコの方が好き。

 

じゃあなんでシャンパーニュの話ししたの???と思ったそこの君。

アッシリアバビロニアの話しませんか????

シャンパーニュより遥かに興味を引くテーマだよね(そうか?)。

 

そこ(シャンパーニュ)とそこ(オリエント)は繋がらねえだろという意見があるかと思います。

そこを繋げて行きます。

 

シャンパーニュって色んなボトルのサイズがあるんですよ。

ここんとこソムリエ試験で毎年絶対出るから抑えときなさいよ諸君。

かく言う僕も単語帳に容量と名前を書いて覚えました……。

 

まずは通常サイズ、

1.ブテイユ(750ml)

こいつは特に言うことない。

なんで750mlかというと、イギリスがガロン単位でワインを輸入してたかららしいね。

ガロンつかもと!

 

2.マグナム(1500ml)

ラテン語のmagnumに由来している。

意味は、「デカい」。

 

3.ジェロボアム(3000ml)

イスラエル王国を樹立した王、ヤロブアムに由来している。

在位 紀元前931-紀元前910年。

 

イスラエル王国のソロモン王に雇用されていたサラリーマン

ソロモン王に敵対する預言者にヤロブアムは部族の王になるであろうみたいな預言を受けていたので、イスラエル王ソロモンはヤロブアムを殺すことに決めました!

 

しかしヤロブアムはエジプトに亡命。

ソロモンが後継者に選んだのがレハブアム。

レハブアムが暴君だったので、民衆はヤロブアムを焚き付けてこの二人の対立が深まった。

結果的にイスラエル王国は分裂し、ヤロブアムは北イスラエル王国の建国者になった。

だが彼の政治的手腕はともかく、宗教者としてはバッシングに満ちた人生だったと言える。

イスラエル王国はサウルというおっさんが作りかけて頓挫しかけたところをダビデというウマ息子フルチンダービーが引き継いで侵略戦争をしまくって大きくした国だ。

ダビデというのは旧約聖書に乗っ取るなら神ヤハウェの代理者的存在であった。ダビデのやることは神のやることで、絶対的な神のお墨付きをもって王をやっていた。

ダビデ契約」と呼ばれるのがそれである。

ヤハウェは都をエルサレムに選び、王をダビデにすることにしたという内容だ。

政治においてもダビデは(現実的には人気取りのために仕方なくやってたフシはあるが)それなりに神ヤハウェに忠実にやっていた。

ちょっと調子こいてヤハウェに見捨てられたダビデに入れ替わり、ソロモンという男がイスラエル王になった後もそのスタンスは変わらなかった。

だが、分裂後のヤロブアムは違った。

ヤハウェが絶対すんな、したら殺すと耳にタコが出来るほど言い続けてる偶像崇拝をやったり、祭りの日を変更したり(リスケジュールが出来るサラリーマン)、本来レビ族しかなれない祭司を他の部族にやらせたり(実力のある部下に既得権益になっている役職を改革させることが出来る上司)した。

この結果北イスラエル王国は背教者の国ということになってしまった。

でも忠実にやることやってても理不尽にキレて人を殺すヤハウェは何故かヤロブアムを殺すことはしなかった。

へーんなの。

 

4.レオボアム(4500ml)

そういやシャンパーニュのボトルの話だったね。

前述したイスラエル王国の王、レハブアムに由来。

在位紀元前930-紀元前913年。

 

偉大すぎる王ダビデの息子である偉大すぎる王ソロモンの息子、レハブアム。

端的に言って彼は暴君だった。

しかし環境による重圧だとか、偉大な祖父と父に対する感情だとかによって情状酌量の余地がないこともない。

ソロモンも大概無茶苦茶な政策をやりまくっていたのだが、そのお鉢が回ってきたので辞める訳にもいかず、政治手腕は凡庸なので金を掛けるしかなくなる。

つまり税金がたくさん必要になり、民衆に嫌われ……という可哀想な流れ。

イスラエルの民衆が、「頼むから税金安くして仕事を楽にしてくれ」と懇願した時、レハブアムは「わかった!税金を重くしてやろう!!」とか言った。

 

 

僕、税金とかいうの嫌いだからやっぱこいつもキライ!!!

 

しかし彼の可哀想な人生は北イスラエルを失ってユダ王国になってしまった事だけに留まらず、父であるソロモン王が建立した歴史に名高いソロモン神殿もエジプト王朝にボコボコに粉砕されて跡形もなくなった。

エジプトに臣従して属国化し、弱小国家になって可哀想な人生を送る羽目になった。

 

こういうのをヤハウェの下した罰だと聖書が言うのなら、僕はこの陰湿な罰の降し方をするヤハウェのこと嫌いじゃないよ。神(というものが存在すると言う立場の方々に最大限譲歩してその人格を認めることを前提として)のくせにみみっちくて。

 

5.マチュザレム(6000ml)

みんなエルシャダイやった?!?!?!

あれクソつまんないよね!!!僕は好きだけど。

あれ続編出てるの知ってた?ザ・ロストチャイルドっていうらしい。プラットフォームがPS4なのでやってませんが……。

あとPC版が発売されますよ。

 

エルシャダイに、イーノックってやつ居たと思うんだけど、イーノックの息子であるメトセラに由来しているのがマチュザレム

 

創世記に記述があり、イーノックが65歳の時の子供。

187歳でノアが生まれ、969歳で死んだ。

死んだ直後に大洪水が起こってノアが方舟を浮かべるという話。

 

いくらなんでも人間がそんな生きるわけないだろ。

話盛るんだよな聖書は。

 

解釈としてはENOCH(えのっち)が神に好かれており、メトセラも同様だったためにメトセラが死ぬまで大洪水起こさんとこ!みたいな神の思惑があるとかいうのがある。

 

メトセラが死んだからダム的なものが決壊して大洪水が起きたのだ……みたいな。

 

そうは言うが、聖書の記録を大真面目に受け取れば、アダムが930年(諸説ある)、メトセラの曽祖父マハラレルが895年、祖父ヤレドが962年、孫のノアが950年(諸説ある)生きているので、大変信じ難い話ではあるが、この五人の平均寿命は937歳となる。

つまり平均寿命よりちょっとだけ長生きしたということになる。

何もメトセラだけが特別に長生きってわけじゃない。

聖書によれば、大洪水以降はヤハウェの唐突な思いつきで「人間の寿命は120年にしよう!」ってなったらしく、徐々に寿命が短くなっていく。

 

僕はインターネットのない世の中で900年も生きるのはちょっと無理ですね。

 

6.サルマナザール(9000ml)

アッシリアシャルマネセル5世に由来。

在位 紀元前727-722年

 

アッシリアっていいですよね。僕好きなんですよ。

世界帝国、四方世界の覇者、総体の王。

 

同じシャルマネセルだったら3世の方が好きなんだけど、なんてったって5世はイスラエル王国を滅亡させてますからね。

 

旧約聖書のうち、イスラエル王国の王について書かれた『列王記』は、正直内容がいまいちぱっとしない書物なのだが、面白いと思えるのはイスラエル王国アッシリアバビロニアに対する怨恨がこれでもかと言うほど書かれているところくらいだろうか。

 

この時のイスラエル王国はヤロブアムの北イスラエル王国の系統だ。イスラエル王国がどう言おうが、とっくにアッシリアに臣従していたわけだが。

アッシリアにへこへこするのが嫌になったイスラエルホセアは「シャルマネセルがこの広大な帝国を維持するのは無理に違いない!」と判断して貢物をやめたため、当然アッシリアは見せしめのためにシメないといけなくなる。

ここにアッシリアVSイスラエル王国の戦争が始まった!

 

アッシリアの宗教は、メソポタミア神話に起源を持つ。ことアッシリアに於いては都市神アッシュールが最も祀られていたが、イシュタル神殿や天候神アダド神殿などもあった。

 

対してイスラエル王国は言わずと知れたアブラハムの宗教で、最高神は言わずもがなヤハウェだ。

 

戦争においてイスラエル王国アッシリアに征服されたことは、宗教の観点から見た場合はヤハウェとアッシュールの代理戦争をイスラエル王国アッシリアがやったということになり、結果的に全知全能の神、ヤハウェアッシリアの都市神アッシュールに敗北したということになる。

 

この時点でヤハウェはアッシュールよりも格下の神になってたんですね。

 

案外ヤハウェってよく負けるんだよな。

人間にすら相撲で負けてますからね

 

そもそもイスラエル王ホセアの見切り発車で始まったこの戦争だが、結果としてイスラエルの民にとっては耐え難い出来事だっただろう。

これが「アッシリア捕囚」といって、もともとイスラエルに住んでた人たちをアッシリアに連れて行って、変わりにバビロニア移民を北イスラエルに住まわせてアッシリア属州にしたというやつです。

文化的蹂躙!いいですね!!自分たちの都が別人のものになり、神殿が破壊され、記録は破棄される!そして当のイスラエル民族は遠い国でそれを見ることも出来ず、異郷の地で暮らすしかない。

そして異民族との混血が進んだ北王国は南王国からも民族的に軽蔑されることになる。

考えただけで興奮するわい……。

 

旧約聖書の『列王記』では、この事について

 

 

これは彼らがその神、主の言葉にしたがわず、その契約を破り、主のしもべモーセの命じたすべての事に耳を傾けず、また行わなかったからである。

と述べている。

 

これは南王国側(ユダ王国)が北王国(イスラエル王国)のことをディスってるんだけど、その後すぐアッシリアユダ王国にまで攻め上がってきて結局ユダ王国お金を払ってアッシリア服従することで許して貰いました。

 

でもアッシリアは基本逆らう奴は皆殺しか流刑、都市は破壊がデフォルトなので寛大すぎる処置といえる。

 

7.バルタザール(12000ml)

バビロニア最後の王ナボニドゥスの息子ベルシャザルに由来。

もっと有名なのは東方三博士の一人か。

ただ東方三博士のバルタザールは後付けの名前であるとするのがいまの環境らしいので、この件について詳しくは述べない。

それはそれとして、東方三博士としてのバルタザールは(時代の整合性などは全くないけど)、芥川龍之介のバルタザールが面白い。

 

ここで読める。

 

よみたまえ。

 

文中からシン、ベル、メロダクなどのバビロニア系神格の名前が見えることからも、別に芥川がボケててエチオピア王とかにしたのではないことが判る。

 

また、小説のみならず、芸術の分野において非常に人気のある題材となっている。レンブラントとかもこのベルシャザルを題にやっていたりする。

これはグーグル画像検索ですが……。

 

 絵画めちゃくちゃ多いし、オペラにもなっている。パブリックドメインになっているものも多いからまあ見ておきたまえ。

 

ベルシャザルが王かというと実際には摂政なのだが、旧約聖書ダニエル書では王ということにされている。

ベルシャザルが大規模ノミカイを開催していると、突然謎の手が出てきて壁に文字を書いた。

しかし誰もそれを読むことが出来なかった。

ユダ王国の捕囚、ダニエルがこれを読んで、「お前の治世がネブカドネザルに比べてしょぼい上に調子にのっているので、バビロニアはこれで終わりにする」と読み解いた。

実際その夜ベルシャザルは殺されて、バビロニアはアケメネス朝ペルシアに敗北することになる。

捕囚については詳しくは次の項で書くことにする。

 

ベルシャザルが調子こいていたことについてだが、彼が大酒宴に用いていたのはネブカドネザルがソロモン神殿から略奪してきた什器だったことが大きい。 それ以上に彼の名前が悪かったと言える。

アッカド語で「ベル・シャル・ウツル(ベルは王を守る)」という名前が聖書編纂者に見つかってしまい、いつぞやヤハウェがマルドゥークに負けた時の意趣返しをされたとも取れる。

ベルというのはバビロニアの主神マルドゥークの別名で、要するにヤハウェはマルドゥークに勝った!!!という風に書きたい人達が居たということだね。

陰湿なんだよなやり方が……。

 

何にせよ事実としてナボニドゥスの子ベルシャザルの政治はイケてなかったし、ナボニドゥスについても、政敵キュロスなどと比較するとやはり霞む。

そもそもネブカドネザルからの直系カルデア王朝じゃないしね。

新バビロニアの勃興は天才ナボポラッサルとその息子、神の剣、バビロンの再建者、バビロニアを最も繁栄させた者、四方世界の王、ネブカドネザルの手腕によるものが大きいので、それ以降の新バビロニアはね……。

 

そしてこのバルタザールの饗宴というエピソードには、思わず笑ってしまうようなオチがついている。

 

 

前述した突然手が出てきて壁に書かれた文字についてなのだが、

書かれた文字はこうだ。

 

「מנא מנא תקל ופרסין 」

 

旧約聖書学者M・Aベークはアルファベットに直しており、

 

mnh tlk prs prs

としている。

 

子音しか書いてないので、これを無理やりに解釈してダニエルは前述の通りに読み解いた。

メネ、メネ、テケル、ウパルシンと読み、

メネは「数えられた」

テケルは「秤で測られた」

ウパルシンは「別けられた」

という意味だが、宗教色を全く置き去りにして解釈した場合、仮にダニエルと同じ読み方をしたとしても、

「数えた」

「数えた」

「測った」

ペルシャ人が」

と読めるという説もあり、常に素朴にペルシャ系のパーティ参加者が壁に字を書いて計算していたと言う可能性があるとされている。

 

これを見て咄嗟にバビロニアをディスったダニエルは流石という他ない。

だがそれをおいてもバビロニア内の国民感情は最悪の状態だったので、アケメネス朝ペルシアがこの後バビロンに入場した際は無血開城したほど。

つまり滅びの予感どころか、絶賛滅んでる最中だったということです。

 

 

8.ナビュコドノゾール(15000ml)

言わずと知れたネブカドネザル二世に由来。

即位紀元前605年 - 562年

 

今日はこの話がしたかった……。

恥ずかしながらソムリエの試験勉強してる時はナビュコドノゾールっていう文字列を見てすぐさまネブカドネザルに結び付けられなかったんだよな。

皆さん、ネブカドネザルのことご存知ですか?エヴァとかで有名ですよね。

僕はエヴァ履修してませんが……。

 

バビロニアという国は、実に歴史の長い国である。

世界で最も古くから農耕の行われている地域であり、四大文明の一つ(最近はこう言わないらしい)、メソポタミア文明の中心地であった。

シュメール人アッカド人達は「文字」という世界で最も尊い(かぜはくの主観です)文化を発明し、都市国家を形作っていった。

今なお古代文学として著名なギルガメシュ叙事詩などはウルク第一王朝にあたる。

しかしバビロンに勃興した王朝として最も有名なものはバビロン第一王朝であろう。

ハンムラビ王で有名なこの王朝は古代オリエントを統一し、四方世界の中心地をバビロンに据えた。

 

全くの余談なのだが、新婚旅行でルーブルに行った時、僕は「何があってもハンムラビ法典だけは見たい!!」と言って、家内をメソポタミアコーナーに連れていった。

 

地下に潜るに連れて人影が少なくなり、ケペシュやシックルなどのアイテムがあることだけが目的のハンムラビ法典に近くなっていることの手がかりであった。

一時間も掛けてハンムラビ法典のある場所にたどり着いただろうか。

辺りには僕と家内以外の誰もいない。僕の興奮する息遣いと、荘厳な佇まいのほか、何も語らないハンムラビ法典と、僕を見つめる家内以外、何もそこになかった。

僕は学生時代からいつか見たいと思っていたハンムラビ法典を目にして、言葉を失った。

手の触れることも出来るような距離にいながらも、その巨大な玄武岩が、悠久の時を超えて今なおこの浮世に存在し続けるそれ自身が、僕の前にあることにただ声をもらすしかなかった。

 

どれほどそこに居たかは判らないが、僕がそこに居る間、誰もハンムラビ法典の周りには訪れなかった。

家内はハンムラビ法典について、「ハンムラビ法典のことについては何も知らないけど、それがそこにあることの奇跡性が感じられた。それとは別に、前から変わった趣味の持ち主だとは思ってたけど、あの空間の異様な空気を感じ取るに、やっぱり君の趣味って世界的規模で見ても不人気なのでは?」などと言っていた。

 

話をバビロニアに戻そう。

バビロニアは偉大な国ではあったが、帝国をアッシリアの前では次第に劣勢となり、臣従を余儀なくされた。

百年の長きに渡りバビロニアアッシリアに支配されていたが、アッシリアの偉大な王であるアッシュール・バニパル王(図書館とか作ったかぜはくの推し王)が死ぬとアッシリアが不安定な状況になったため、その時のカルデア(ウルとかウルクがあるバビロニア南部)総督であったナボポラッサルは反乱を起こすことにした。バビロンに入城したナボポラッサルはアッシリアからの独立を宣言し、バビロニア地方を全て占領下に置いた。

 

賢王にして覇王、アッシュール・バニパル王を失ったアッシリアは血みどろの後継者戦争が勃発しており、内乱に満ちていた。領土が広い上にそれをまとめあげることの出来る王が存在せず、メディア王国、バビロニアなどを初めとした連合軍がニネヴェの戦いで長きに渡り四方世界を支配し続けたアッシリアの寝首をかいた時、アッシリアは完全に有名無実なものになっていた。

 

アッシリア帝国を滅亡させた立役者は二人いた。前述のナボポラッサルと、メディア王キュアクサレス二世であった。

この二人の関係はこれ以前からズブズブであり、アッシリア陥落以後もその関係性は維持していた。

すなわち、ナボポラッサルの息子ネブカドネザル二世とキュアクサレス二世の娘アミュテュスの政略結婚だ。

 

ネブカドネザル二世が王位に就いた後、彼の目標は二つあった。エジプトとシリア地方の征服である。ナボポラッサルの死などがあり、エジプト攻略→停戦協定→停戦協定後速攻で起こった反乱の鎮圧を部下に任せる→父王の死後バビロニア王位を簒奪しようとする奴らを粛清するためにバビロニアに戻る→戴冠→エジプトに戻るという豊臣秀吉もびっくりの大返し×2をこなしたりしてエジプト征服は難航したものの、シリア征服は成功した。

前述の、イスラエル王国をディスっていたユダ王国にも艱難の時が訪れたのである。

この時に行われたのが「バビロン捕囚」だ。

ユダ王国の王であったエホヤキンネブカドネザル二世に敗北し、多数のユダ王国民と共にバビロニアへと連れていかれた。

エホヤキンも独力でバビロニアに勝てるとは思ってなかったのでエジプトを頼ったりしていたのだが、大言壮語するばっかりでいざ戦争という段になったらエジプトは全く動かず、ハシゴを外されて敗北した。

可哀想なのはこのエホヤキン、ケツモチを選べなかったことである。

単純に考えるとまたヤハウェが他の神(今回はマルドゥークとその息子ナブー)に負けた能無しなのだが、ここの所を旧約聖書がどう弁明したかというと、エレミア書二十五章でネブカドネザルを神の下僕に認定し、神がバビロン捕囚を命じたということになった。

ま、まあたまたまヤハウェも情緒不安定だったりしたのかもしれないしね?

 

ところで捕囚、わりとメソポタミアではよくあった。

アッカドなりアッシリアなりバビロニアなり、広大な帝国を維持するには植民が不可欠である。占領した土地を自国の民で栄えさせ、なおかつアッシリアとの戦いで荒廃した時刻の領土に移民を持ってきて人口を増やす。

バビロニアではついでに優れた技能を持ったものはバビロニアの事業に参加させられることになる。

ネブカドネザルは戦争も上手いけど、最も特筆すべきは世界征服しながらの建築事業への着手である。ネブカドネザルの手腕の凄まじいことが判りますね。

 

第一回バビロン捕囚では、実の所ユダの捕囚民は非常に楽観的であった。預言者たちは「アッシリアみたいにすぐバビロニアは滅んで今にエルサレムに帰れるよ!!」などと吹聴していた。

だがネブカドネザルエルサレムに対して全く容赦がなかった。徹底的にエルサレムを粉砕し、略奪し、蹂躙した。

モーセ以降守られ続けていた律法の櫃も消失した。神殿は完膚なきまでに破壊され、イスラエル民族の心の拠り所はなくなったのである。

 

かくしてダビデ家は滅んだ。

識字層はバビロニアにとられ、反乱の可能性がある氏族は断罪。

しかしバビロニアアッシリアが許さなかった自民族の風習と文化を伝承することを許し宗教活動さえ許した。

ネブカドネザルは寛大だったので、ネブカドネザルについて語ることをイスラエル民族に許した。だからこそ聖書の評価により、暴君として歴史に残ったとも言えるね。

 

なんなら待遇よかったとも言える。エホヤキンなんかは捕囚中に子供まで生まれて家族仲良く暮らしてるし、そのための生活費はバビロニア持ちだし。

ネブカドネザルが死んだあとは王族扱いだし……。

そして彼らは先祖の土地に帰ったとも言えるということだ。

ノア以降のヤハウェ教における最初の預言者であるアブラハムバビロニアで言うところのウル出身なのだ。

 

決して待遇がめちゃくちゃ悪いわけではなかった(アッシリアと比較して)。

 

しかし旧約聖書詩篇ではバビロン許さねえ。てめえらの子供を岩に投げつけて仕返ししてやるなどと呪っている。

おいおい、捕囚は神の意志じゃなかったんかよ。

 

バビロン捕囚は、ユダヤ人の宗教観を大きく変えた。

まずヤハウェイスラエル人の神ではなく、全知全能の唯一神、世界の創造者ヤハウェになった。

彼らのアイデンティティだったエルサレム神殿が完膚なきまでに破壊されたので、彼らは神殿より律法を拠り所とした。

この頃からもともと排他的だったユダヤ人はより一層選民思想をアゲていき、強固な民族同一性を保持するようになる。

……可哀想な民族だよな……。

 

エホヤキンの代わりにネブカドネザルが王に据えたゼデキアの話などもしたいのだが、紙幅の関係上省く。

 

 

しかしこの世は盛者必衰、諸行無常であって、バビロニア最強の王であるネブカドネザルが死ぬとバビロニアはズブズブと破滅への道行を辿り始める。

一説には晩年気が狂ったなどと言われているが、バビロニア最後の王ナボニドゥスとの混同が見られる。

まあ気が狂って死んだ方がロマンティックなのでそれはそれでいいよ。

 

そして今、これ程までに僕を魅了してやまないバビロニアという都市はこの世に存在しない。

現在も残るのは僅かなバベルの塔とされたジッグラトの階段と、解体された煉瓦の残骸のみである。

 

 

 

ナビュコドノゾールの上にもサロモンとか色々大きさの単位はあるのだが、一般的でないのでまた今度!

オリエントが好きだからすごく長くなっちゃった。

みなさん!オリエントはいいですよ。

僕と一緒に四方世界に思いを馳せようではないか。

 

 

参考文献

ja.wikisource.org

P・アイゼレ(1998) 『バビロニア』 アリアドネ企画

鏡恭介(2015) 『バカダークファンタジーとしての聖書入門』 イースト・プレス

あとは大体ウィキペディア