かぜはくのテイスティングノート -ヘラクレスの栄光再び篇-
2013 ネメア・リザーヴ/カヴィーノ
毎日が忙しくてなかなか日記が書けないぜ。
僕ちゃん地中海のワインが好きなんですよ。
だからイタリアとスペインと南仏ばっか飲むことになるわけですが、たまに面白い産地があると試してしまうよね。
というわけで今回はギリシャです。
ギリシャといえば哲学の生まれ故郷であって、非常に面白い、典雅な歴史の宝庫でもあるわけだが、世間にとってのギリシャのイメージといえば、やはり財政破綻国というところであろう。
いやしかし待ってほしい!ギリシャという国をまるで衰退したみたいな言い方をするのは!!
むかしからあんなんですよギリシャは!!!
都市国家が乱立しまくっていた国なので団結が大不得意で、民主主義が発達してるから衆愚政治になりやすくて、仲間割れと足の引っ張り合いが得意でうだうだしてるうちにメインストリームじゃなくなってたみたいなとこです。
ヨーロッパ文化の源泉と見る見方もあるが、それもギリシャのド辺境出身のアレクサンドロス三世がギリシャ文化をアジア以東に広めたときにはすでにギリシャがギリシャ文化の中心ではなくなっていたし、その後ギリシャを征服したローマがギリシャ風文化おしゃれじゃんって広めたからであって、ギリシャ文化が西欧の文化の源泉になったのはローマの功績といえよう。
そうは言っても実際ギリシャが生み出した文化は素晴らしい。
筆頭として挙げられるのは文学であろう。
ホメロスが紀元前八世紀にその原型を作ったと言われる『イリアス』や『オデュッセイア』などは叙事詩として今日まで伝わる冒険活劇の祖とも言える作品であるし、ヘシオドスの書いた『神統記』などはギリシャ神話を理解するために今も紐解かれる書物である。
『歴史』を書いたヘロドトス、『戦史』のトゥキディデス、バビロニア研究者からも評価の高い『アナバシス』のクセノフォン、「全ての陳腐なものを忌み嫌う」カリマコス、「体は自由にできても心までは自由にできない」エウリピデス、レズのサッフォーなど古代ギリシャの優れた文学者については枚挙にいとまがない。
例からも分かる通り、古代ギリシャの文学とはほとんどの場合が詩であった。優れた詩を元に劇作家たちが喜劇や悲劇を作り、ヘレニズム文化を作り上げていった。
そして詩は哲学を醸成した。ソクラテスなどは詩人であったし、彼の弟子であったクセノフォンも前述の通りである。
プラトンは詩人追放論などからも判るように、明確に詩を批判する思想を持っていた。しかしながらこれこそが哲学における重要な姿勢であって、ソクラテスと詩の批判をプラトンがすることにより、いっそうギリシャの哲学はアカデミックなものとなった。
いわば詩とは哲学の父である。
まあ哲学の話はまたやるとしよう。
ワインの話に戻ろう。
このワイン、ヴィンテージが2013年ということでもう8年ほど熟成しているのですが、果たして大丈夫なのですか?という疑問にまずお答えしましょう。
ギリギリ大丈夫でした。
いやちょっと酸化熟成が進んでいるね。
・ギリシャで
・千円台で
・8年熟成で
・アギオルギティコ
どう考えても満貫手なのだが、結論からいうとそれでも僕は好きです。
詳しくテイスティングした内容は以下。
外見は黒みを帯びたガーネット。
アルコール度数は通常程度。
外見の印象からはヴィンテージほど熟成した印象は受けない。まだ寝かせられるイメージ。
あくまで見た目は……。
カシス、ブラックチェリー、カンゾウ、樹脂などの香り。やや酸化のニュアンス。
口に含むとまじくそめちゃくちゃタニックでえげつない酸味。木樽、カカオ、チョコレート。
この辺の酸味(あくまで完全に参加して酢になっちゃった酸味ではなく、アギオルギティコ種の強烈な酸)とか第一アロマとかが生きてるからまだ飲めるけど、かなり人を選ぶワインだと思った。
ちょっと置いといて落ち着かすか……と思って放置。この間、家内のお父さんがくれた鬼滅の刃無限列車編を見て過ごしました。
死んでしまうぞ杏寿郎!
置いとくとプルーンみたいなドライフルーツの印象が出てきて、そういうのとよく合う。バナナチップスなんかとも合ったね。
僕としては飲むうちに好きになるワインだと思った。酸味に慣れるというか……。
型にはまった美味しいワインの枠というのから外れている個性を楽しむワインとして見ると、なかなか面白いワインであるという結論になった。
ところでネメアで思い出したんだけど、金犀会っていうネットミームがあるよね。
あれ嘘も大概に混ざってるけど、「ネメアの獅子のようになれ!」とか「俺の人生みてえな雨だな」とか、「ゴメンチャイロクメンチャイ」などの台詞回しもよければ、一度金で手を組んだ殺し屋が言っていた「海か山か好きな方を選びなさい」を自分が殺されるときも聞くことになるとか、非常に出来がよくて膝を打った。
クボタの主人公への仄かだが確かな愛情なども、よい。