FF10 夢の終わり
「おせえぞ、アーロン」
ジェクトはかつての親友に言う。
「……すまん」
荒廃したブリッツボール競技場跡地。
そこでジェクトはずっとアーロンを、そして息子を待っていた。
十年という時間は、『シン』となったジェクトにとっても、死人となったアーロンに対しても長すぎた。
まだ青さの残る青年だったアーロンは今や中年で、ジェクトよりも老けてすら見える。
そして、ついに親子は対面する。
しかしこの親子は、十年前からお互いへの接し方が判らないままだ。
「よお」
「ああ」
ここのぬか八くんの声が既に涙ぐんでいるのが、こちらの涙を誘う。
「背ばっか伸びて ヒョロヒョロじゃねえか!ちゃんとメシ食ってんのか?」
ジェクトはまた子供に対して素直になれず、悪態を付いてしまう。十年ぶりにあった息子に対して、言いたくもない嫌味を言ったあと、
「でかくなったな……」
と言うのが、彼にとっての精一杯だった。
「まだあんたの方がデカイ」
「なんつってもオレは『シン』だからな!」
「笑えないっつーの」
ついに逢えた二人には、もっと話すことがあるはずなのに。
話が出来る時間すらもうあまりないことも、お互いに判っているはずなのに。
この二人はついにお互いを愛していることを言葉で伝えることが出来なかった。
「じゃあ、まあ、なんだ、その……ケリつけっか!どうすりゃいいかわかってんな?」
父親の決意に対して、ぬか八くんは力強く答える。
「ああ!」
「もう歌もあんまし聞こえねえんだ。もうちょっとでオレは心の底から『シン』になっちまう。間に合って助かったぜ。
はじまったらオレは壊れちまう。手加減とかできねえからよ!……すまねえな」
ぬか八くんは聞きたくないとばかりに、父親の言葉を遮る。
「もういいって!うだうだ言ってないでさあ!」
「だな。じゃあ、いっちょやるか!!」
ジェクトはふらふらと背後の崖へと後ずさる。
ぬか八くんは堪らず、泣きながら追いかける。彼の手は父親に届かず、ジェクトは崖下へと消えた。
地面が大きく揺れ、姿を表したのはジェクトが召喚獣となった姿、「ブラスカの究極召喚」だ。
変わり果てたジェクトの姿を認めると、ぬか八くんは刀を抜く。
「すぐに終わらせてやるからな!さっさとやられろよ!」
僕はこのシーン、大好きです。
全ての親が子供に対して理想的な親になれるわけではなく、それは子供も同様だ。
ぬか八くんの複雑な、自分でその正体を掴みきれていない感情は今ここに至って涙となって彼から溢れ出てきた。
もしかしたら、ジェクトはそれだけで報われたかもしれない。
ここで流れるのが「Other World」。
これいいよねーーーーー!!
イントロと共に「ブラスカの究極召喚」の腕が現れるの、すごく、カッコイイ……(語彙消失)
一連のFF10の日記にも書いたけど、この曲は主人公が父を超えるための曲なんだよな。
ジェクトからぬか八くんに語りかけるかのような歌詞で、戦え!戦え!戦え!とがなるガテラルが強くぬか八くんを奮起させている。
父親からの愛情をそこには感じるし、希望を託す思いも聴き取れる。
メロディアスなギターソロには哀愁を感じる。
この曲、すごくいい曲ですよ。
しょくん。聴きたまえ。
ジェクト――「ブラスカの究極召喚」は単体ではなく、左右にジュ=パゴダというモノリスを連れて出現する。
このパゴダは初期HPは5,000だが、倒しても一定ターン後には復活する。
そしてその時、これまでに与えた累計ダメージ数までHPが回復する。
パゴダが二体いる時は「ブラスカの究極召喚」のHPを回復させ、デバフをリセットする「パワーウェーブ」を使用し、一体だけになるとこちらのMPを全て吸収してくるアスピラか、状態異常攻撃をしてくる。
攻略法はパゴダの回復量以上に「ブラスカの究極召喚」にダメージを与え続ける、つまり無視する形か、あるいはこまめに二体まとめて始末するのがいいだろう。
回復が頻繁でうざいならスロウでも掛けとけばよい。別に頑張って倒す必要はない。
一方で「ブラスカの究極召喚」は中々強敵だといえる。
前述のパゴダのせいで実際の数値よりタフだし、第二形態まである。
そしてオーバードライブゲージがあり、溜まるとオーバードライブ技を放ってくる。
第一形態のジェクトフィンガーは大したことないが、第二形態の真ジェクトシュートはけっこう痛い。
あと通常攻撃のジェクトビームが案外恐ろしく、無策で食らうと石化してしまう。その状態でダメージを貰うと砕け散ってしまい、二度と戦線に復帰できない。
パーティメンバーが一人減ると当然ダメージソースも回復役もいなくなる。これだけは避けたい。
また、「ブラスカの究極召喚」のオーバードライブゲージについては、進みを遅くさせることが出来る。
この戦闘飲みぬか八くんにトリガーコマンドが追加され、「ブラスカの究極召喚」に話しかける事が出来るのだ。
ぬか八くんは涙ながらに、「絶対負けねえ!」
「もうあんたには負けねえ!!」と語りかける。
それだけで「ブラスカの究極召喚」は動揺し、オーバードライブゲージをリセットしつつ「ブラスカの究極召喚」の攻撃力も下げることができる。
但しそれも二回まで。
三回目は「もう声は届かない」とだけ表示され、何の意味もない。
今の今まで正気という名の薄氷の上を歩んできたジェクトは、ついにそれを踏み抜いてしまった。一度狂気の側に落ちてしまえば、もう戻ることなど出来ない。
僕はこの戦闘、あんまり育てすぎて挑みたくないんだよな。
是非とも真ジェクトシュートを辛くも耐えて、ぬか八くんのエースオブザブリッツでとどめを刺してあげてほしい。
ガードとしても、ブリッツの選手としても父を超えたことを示すのだ。
「ブラスカの究極召喚」を倒すと、彼はもとの姿に戻る。
もはや立つことも叶わず、そこに倒れようとする。
そこに走り寄り、やさしく抱きかかえるぬか八!
ここのジェクトの、
「泣くぞ。すぐ泣くぞ。絶対泣くぞ。ほら、泣くぞ……」はぬか八の記憶の中の同じセリフと比べて、非常に穏やかで、暖かで、子を思う父の心が伝わってくる。
涙をこぼすぬか八。
泣くのはまだ早いとたしなめるジェクト。そしてぬか八はすべてを終わらせることを父に伝える。
「初めて……思った。あんたの息子で……よかった」
それが言えただけで君の物語は素晴らしいものになったと僕は思うよ。
ジェクトの体から抜け落ちた寄生虫ことエボン=ジュは行き場をなくしてその辺をさまよう。
ジェクトは最後にユウナに向かって叫ぶ。
「俺たちを!」
そこにいつも助けてくれるショタの声がリフレイン。
「僕たちを!」
「喚ぶんだぞ!」
「喚ぶんだよ!」
以下、怒涛の消化試合がはじまる――!
ところでパゴダってなんだよって思いませんでした?
幼かりしころの僕は思った!
これね、ストゥーパのことです。
ストゥーパってなんだよって思った?
サンサーラナーガをやるとよい。
さて、ここからはオカルトの時間だ……。
ストゥーパの話をするには、仏教の話をせねばなるまい。
ゴータマ・シッダルタこと、釈迦は優れた哲学者だった。
彼が死んで荼毘に付されたあと、信者たちが釈迦の骨を欲しがった。
何故欲しがったのか?
実は釈迦入滅以前から、釈迦には呪的力能があると信じられていた。
有名なところだと、悟るために禅定し続けてたら死と煩悩を司る悪魔、マーラが出てきて「えっちなことって、いいと思いませんか?」と語りかけてきたところを退けたり(魔王調伏できる釈迦スゲー!)、悟ったあとも禅定してたら梵天が出てきて釈迦のことをリスペクトしてきて教えを広めるように言って来たり(バラモン教の最高神ブラフマーに尊敬されるなんてスゲー!)と、釈迦には魔王も梵天も及ばないほどの超呪力があるとみなされてきたのだ。
これらの伝説は説話により広まっており、釈迦の説法による教義の伝道の際に釈迦の権威付けとして創作された可能性が非常に高い。
出典を求めれば、『スッタニパータ』や『本生経』などでも釈迦の呪力について言及がなされている。
そんなわけで釈迦はスゲーので、当然釈迦の遺骸にもご利益あるだろという思考になる。
入滅した釈迦を荼毘に付したのはマッラ族という部族である。彼らは祭祀を行っていたが、釈迦のパトロンの一人であり、暴君であり、征服王でもあったアジャータシャトルは、
「俺にも祭祀させろや?仏舎利をもらう権利が俺にもあんだろが?」とマッラ族を威圧。
戦争で儲かるし仏舎利ももらえるぜ!となった周辺諸国も軍隊を派遣。
生前あんだけ釈迦スゲーと言っていた各国の王たちも仏舎利欲しさにおっとり刀で戦争待ったなしの状態になったところ、急にバラモン僧が飛び出してきて「ダサいからやめろ!仏舎利はみんなで平等に分けよう!」と提案。
「お、それいいじゃん賛成!」となり、みんなで仲良く仏舎利を分けてそれを埋めたとこにストゥーパ(仏塔)を建設。インドは平和だ。
ちょっと割を喰って炭とか仏舎利を計量した瓶しかもらえなかった人もあったらしいが本筋には関係ない。
つまるところ、仏舎利には超スゲーパワーがあると信じられていた。
軍隊の出勤には結構すごい金が必要なので、各国もそれを押してでも仏舎利を手に入れたいと願ったわけである。
仏舎利には現世利益をもたらす力があると、マジで信じている奴らがいたのである。
つまりそれを祀っているストゥーパも超スゲーパワーがあると信じられているのである!!!
このストゥーパ、めちゃくちゃブームになった。
最初は十基だったのがインド国内で建てられまくり、八万四千基にまで増えた。骨が足りないので石を埋めたりもする。インドで流行るということはミャンマー、タイ、パキスタン、東南アジアや中国にも伝播する。中国に輸入されたということは当然日本にも輸入される!!
諸君たちも見たことがあるだろう。通販サイトで日本語があやしいレビューがたくさんついた、★5評価のあやしいあやしいストゥーパを……。
いやもっと違うところで見ているはずだ。
ストゥーパは中国に入った時、音訳されて卒塔婆という字が当てられた。
そして塔という字が高さのある建造物を指す言葉となり、日本に輸入されてからは木造建築に形を変えた。
法隆寺、清水寺、東寺なんかにある木造建築の塔、あれ全部ストゥーパ!
そして日本人の習性として、なんかちっちゃくするのが好きなので多宝塔とか五輪塔とか石墓とかになる。
そして日本人は更にストゥーパをペラくしてしまう!
板塔婆の誕生だ!!!
原型は12世紀の『餓鬼草子』なんかにも見られる。
とにかくストゥーパは形や名前を変えても、その属性は変えていない。
死者を祀る建造物で、スゲーパワーを持つと信じられている。
なぜここまで紙幅を割いてストゥーパについて述べたかと言うと、ストゥーパについて知った皆さま方には当然一つの疑問が浮かんできていると確信しているからだ。
ジュ=パゴダは誰が何のために建造したの?
ユウナはすべての召喚獣を呼び出し、その全てにエボン=ジュを乗り移らせていった。
最後に行き場をなくしたエボン=ジュは、所在なさげに浮遊している。
「みんな、一緒に戦えるのはこれが最後だ。よろしく!!」
とぬか八。
「エボン=ジュを倒したら、俺、消えっから!勝手で悪いけどさ、これが俺の物語だ!」
エボン=ジュの攻略については、特に言うことがない。
リレイズが掛かってるので、死のうと思っても死ねない。
でもここでリレイズが掛かってるのってちょっと恐ろしくもあるよね。
死ねないということは終わらないということで、ある種の無限の螺旋に囚われた世界の中にいるともいえる。
エボン=ジュ自体は雑魚だからすぐ死ぬんだけどな!!
エボン=ジュを倒すと、それまで常にエボン=ジュのそばに付き従っていたジュ=パゴダが変形合体し、エボン=ジュをかなり強い勢いでバーン!勢い付けて占める冷蔵庫みたい!
ジュ=パゴダは柩型になり、エボン=ジュを封印。そしてきらめきながら消えていき、やがて無になる。
やっぱおかしくないですか?
順当に考えれば、これまでジェクトを回復し続けてきたジュ=パゴダはエボン教やユウナレスカがエボン=ジュを存続させるために建造した宗教的建造物と見ることが出来る。
でもエボン=ジュを倒したあと、エボン=ジュを封印するのは、ジュ=パゴダを建造した人物の意図が一切見えない。
もしかしたらあれは封印ではなく、保存だったのかもしれないなと僕は思う。
本来のパゴダ=ストゥーパの意味合いを考えれば、死者を祀る宗教的建造物のはずなので、究極召喚やエボン=ジュを存続させるための装置としてはパゴダとは言えない。むしろそれはパゴダとまったく逆のもので、言うなれば死骸になった釈迦を無理やり生き返らせるような、エボン教じみた邪悪な装置だ。
あれはいったいどういう意図で、誰が作ったものなのだろう。
エボン=ジュの存続が目的だったのか?
それともエボン=ジュの封印が目的だったのか?
もし後者だったのだとしたら、エボン教の首魁でもなく、ユウナレスカでもない第三者が存在して、エボン=ジュを封印するためにエボン=ジュに肉薄したことがあるということになるのではないか。
ユウナが召喚獣たちを異界送りしていると、アーロンの体も消え始める。
アーロンはそのまま異界送りを続けさせ、ついに死を受け入れる。
彼も親友からの約束を守って、もうやることがないからね。
そういうすべてをやり切って、これ以上何もないときに死ねるってすごく幸せなことだと思うよ。
ぬか八の体も透け始める。
「俺、帰らなくちゃ。ザナルカンド案内出来なくてごめんな!」
ぬか八、走りだす。
ユウナはそれを追って抱きとめようとするが、ぬか八の体は既にスッケスケになってしまっており、スカってしまう。
ぬか八は消えつつある腕で、ユウナを抱きしめる。
そのままぬか八はユウナの体を通り抜け、空へ飛び込む。
ブラスカ、アーロンの姿が浮かび、最後にジェクトが現れ、空中でハイタッチ。
そして召喚士のいなくなった夢見のザナルカンドは夢幻のごとく、消えていった。無数のザナルカンドの人たちも、祈り子だちも、ほんの小さなしずくの中に映る、ぬか八の姿も。
数日後、ルカの町でユウナは演説をしている。
『シン』を倒し、『シン』はもう復活しないことを伝える。
そして最後に、
「ひとつだけ、お願いがあります。いなくなってしまった人たちのこと、時々でいいあから……思い出してください」
ここでエンドロールです。
エンディングテーマ、「素敵だね」ですが……。
サビの部分の歌詞あるじゃないですか。
素敵だね 二人手を取り歩けたなら
行きたいよ 君の 町 家 腕の中
手も取れねえし、町にも家にも腕の中にもいけねえんだよなあ……100点!!!(ピポーン!!!)