『ガリア戦記』における超やっつけ古戦解説
『内乱記』の方が好きなんだけど、訳書が極端に少ないんだよな。
ビブラクテの戦いとか、ルテティアの戦いとかアレシアの戦いとかを単体で詳しくみたことはあったのだが、そういえば『ガリア戦記』って通読してねえなと思って読んだ。
主要な登場人物たち
女たらしのハゲの借金王。
戦略とセルフ・ブランディングとリーダーシップがやばいやつ。はげましの天才。
ティトゥス・ラビエヌス
(カエサルが上司の時)戦術最強おじさん。
(カエサルが上司の時は)こと戦術においてはカエサルよりも優れているやべーやつ。
(カエサルが上司の時は)超頼れる忠実な中間管理職。
有能なんだけどカエサルのバフでちょっと盛られている人。
後年カエサルと戦ったときには全くカエサルに対応出来てなかったので、有能であるがゆえにカエサルのバフがすごいことを証明してしまっている。
デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス
ブルータスお前もかのブルータスのいとこ。
まだ若い青年でカエサルに顎で使われている。
色白という意味の名前がついており、ローマ婦人たちの本を薄くさせた。
オルゲトリクス
ヘルウェティー族の王。
ガリア全部俺らのもんにしようぜ!と言い出し、ヘルウェティー族を焚き付けて話をややこしくしたやつ。
クーデターを起こそうとしたのでヘルウェティー族に捕まり、自殺する。
ディウィコ
ヘルウェティー族のすいませんちょっと通りますよじいさん。
結局通してもらえず、しかも高すぎる通行料だけとられた人。
ローマにケツを叩かれすぎて一瞬叩き返そうとするが、ローマはリバ不可だったのでケツを叩かれて死んだ。
昔ローマのケツ叩いたことあったんすよwwwwが口癖。
ディウィキアクス
最低クソッタレコウモリ部族、ハエドゥイー族のえらいやつ。
弟がローマを裏切ったり部族がローマを裏切ったりする。本人はいいやつ。
でもローマのうまい汁をすするだけすすって土壇場で裏切るハエドゥイー族は許すな。
ガリアの小早川。
アリオウィストス
ゲルマン系スエビー族の王。
ガリアで好き勝手してる暴君。
でかい口叩いていたがカエサルに一発ボコられてすぐにゲルマーニーに逃げ帰った。
いやちょっと待て登場人物多いよ。似たような名前のやつ多いし見分けつかねえよ。
でもこいつだけ紹介しておく。好きだから。
ウィルキンゲトリクス
アルウェルニー族の勇敢な若い衆。
戦術に長けており、小規模戦闘とファビアン戦法においてはカエサルにも勝る。
無能のガリア人が平地で数に任せて戦おうぜ!!!とか言い出して、断りきれず大規模戦闘してローマに負けたやつ。
戦記物とかでさ、とにかく包囲したら勝ち!!!みたいなのあるじゃないですか。
あながち間違いでもないんだけど、包囲って目的のための手段であって、包囲を目的にすると運用コストがかかるのとリスクが大きくなるので、ありとあらゆる面で包囲が有効かというと絶対にそうではない。
逆に半端に包囲すると、各個撃破されかねないという危うさもあるわけです。
今回はうまいこと包囲できそうな状態になって勝てるじゃんってなった瞬間にだめになった例、「ビブラクテの戦い」を解説したいと思います。
戦術大好きマンからしたら万回擦られた内容だと思う。
まず前段階として、新天地を求めてヘルウェティアを旅立ったヘルウェティー族はローマの属州(プローヴィンキア)を通ろうとしてローマに叱られ、別ルートで行こうとしたのだが、「ガリアにいらん戦乱の種を撒かれたらかなわん!」となったローマ軍は逃げるヘルウェティー族を追いかけまくってちまちまケツを叩いて殺したりしていた。
しかしローマは遠征してきてるわけで、ごはんがなくなったり物資がなくなると追撃が出来なくなる。
そういうことなのでローマ軍はヘルウェティー族のケツを追いかけ回すのを一旦やめて、ハエドゥイ族(同盟軍)の街で補給と休憩をすることにした。
これを喜んだのはヘルウェティー族だった。補給出来ないなら今追いかけて補給を断てば勝てるのでは?と考えて進路変更し、逆にローマのケツを叩くことにした。
ヘルウェティー族は昔ローマと戦争しており、その時のローマの将を残虐に殺したことがあったので俺ら最強だぜという自信に満ち溢れていた。
急に恥知らずなヘルウェティー族が追いかけてきた!ってなったローマ軍はビブラクテからちょっと離れたとこにカカッと陣を張り、ヘルウェティー族と会戦することにした。
ローマ、装備が充実してるし戦術も洗練されてるので、白兵戦は超強いんですよ。
ギリシャのファランクス(密集陣形)の一斉突撃戦法を進化させたレギオーは柔軟性に富んでおり、ファランクスと比べて少ない単位(マニプルス)で動くことが出来た。
この会戦もローマのペースで、投槍でヘルウェティー族の盾を破壊→抜刀して白兵戦のいつものやつで簡単にヘルウェティー族を追い返すことが出来た。
そこに現れたのがヘルウェティー族の後尾を守っていたボイー族とトゥリンギー族の一万ちょっとの兵だった。ちょっと後ろからついてきていたのだが、それが今やっとヘルウェティー族の本隊に追いついたのだ。
ローマ軍がヘルウェティー族との緒戦に勝利し、ヘルウェティー族のキャンプ側に追撃したことにより前進し、その前進したちょうど横っ面にボイー族たちが当たったので、丁度片翼包囲の状態になった。
釣り野伏せ的な状況です。
ところで包囲の何がそんなにいいかというと、
ヘルウェティー
↓
↑
ローマ
この状態だと特にローマみたいな密集陣形の場合、身を護る方向が一つでいいのと、前列がだめになったときの交代が容易で、指揮もやりやすい。
この状態を正面攻撃と言う。
これが今回のような片翼包囲になると、
ヘルウェティー
↓
↑
ローマ→←ボイー&トゥリンギー
二面に対して威力を割く必要ができるため、相手に対するDPSが下がって身を守らないといけない箇所が増え、指揮も難易度が上がる。
戦術的マニューバを行える場所が減り、連携が難しくなる。
攻める側からすれば相手の弱点箇所を攻めることになり、DPSが上がり、しかも自軍の被害が減る。局所的にでも数的優位が発生するし、攻撃の方向性が集中する。
ここでローマ軍は非常に素早く対応したことで、難なくこの片翼包囲を乗り切ることが出来た。
それは、
ヘルウェティー
↓
↑
ローマ1
ローマ2→←ボイー&トゥリンギー
ローマ3
この状態だったのを、
ヘルウェティー
↓
↑
ローマ1
ローマ3→←ボイー&トゥリンギー
ローマ2
この形になったのである!!!!
それだけ?
それだけで片翼包囲は撃破できるんです!!!
要はこの状態は包囲された状態ではなく、陣形を鉤型陣形に変えたことにより、正面攻撃×2の状態にしたんですね。
これが偶然でなく用意された包囲だったならまた話は違ったのかもしれないけど、偶然できた包囲だったので練度の高いローマの処理力が高かったがために完璧に包囲の状態に出来ず、正面攻撃で各個撃破されてしまったのがヘルウェティー族の敗因でした。
結局のところ、包囲したとしても正面攻撃で正面の敵を倒すか、あるいは主力部隊が敵を倒すまでの間攻勢を引き付けておくだけの力が必要になるので、上手いこと包囲が成功して、運が味方して、補給できない状態に追い込んでいたとしてもDPSで負けたら何もかも崩壊するということです。
じゃあどうしてればよかったのか?
例えば地形を使ってローマ軍の戦闘できる人員を減らすなど、通行困難な場所を用いての翼包囲をしたり、数的優位を生かして初戦を偽装退却して兵力を温存しつつ、士気の高い状態で包囲状態に入れればワンチャンあったかもしれない。
すぐ裏切るハエドゥイ族を誑かしてヘルウェティー、ボイー、トゥリンギー、ハエドゥイ連合軍でローマ軍を完全包囲出来てたら理想的だったのかも。
誰が指揮取るのってなるとこで揉めてうまく行かないような気がするけど。
しかしまず前提として主攻撃をする部隊が弱いと包囲が完成しない。
ヘルウェティー族は緒戦で打ち負けてるので、偶然なったとはいえ練度の低い軍隊が練度の高いローマに対して包囲戦術をやるというのは、ちょっと無謀だったと言えよう。
一族郎党を引き連れて全く戦えない非戦闘員を抱えながら、なおかつ全軍を率いる将が曖昧な、勝つための準備が不足している状況で決戦しようとしたのがそもそもの間違いだったのだろう。
なお、この戦闘中はカエサルは戦術においてはぺーぺーだったので応援とかしてみんなを励ましてます。
すごいね、カエサル。
参考文献